創業翌年から続く
伝統の結婚式とサービス
「山の上ホテル」は、昭和12年に財団法人日本生活協会によって建てられた建物を、吉田俊男氏が受け継ぎホテルとして創業した歴史のあるホテルだ。三島由紀夫氏や池波正太郎氏といった数々の文豪が常宿にしていたことでも有名で、「文化人のホテル」という別称があるほど。
創業翌年には、隣接していた建物を買い取り、別館がオープンし、バンケットルームなどを充実させた。施設の充実を機に「山の上ホテル」でも結婚式を行い始めた。当時、それなりの階級の人々にとって、ホテルで結婚式を挙げるのは、ごく自然な事だったからだ。
その頃から受け継がれているサービスがある。メイン料理を皿に盛り付けて出すのではなく、各テーブルを担当するスタッフが一皿一皿、その場で取り分けてサーブするのだ。昔はこれが当たり前だった。格式と雰囲気のある佇まいだけでなく、伝統的なサービスを今でも提供し続けているのだ。
レトロで上質なのに
温かいホスピタリティ
創業者・吉田俊男氏は「これが限度です。客室100で5つの食堂その他バー宴会場がうちの全部です。小さいホテルです。ですが、良いサービスとうまいたべものを継続して行けるのは、これが限度です」という言葉を残している。目の届く範囲で行き届いたサービスを提供する、そんな創業者の意思を表す言葉だ。
「山の上ホテル」には「これが山の上ホテルのサービスです」という決まった形はないのだという。求められるサービスというのは時代とともに変化するものだ。そのニーズに合わせて、対応するのが「山の上ホテル」のサービスなのだ。大きなホテルではないからこそ出来る、目の行き届いたサービスを提供してくれる。
あるスタッフはこう語る。「歴史のある建物なので、バリアフリーなどには対応できておりません。しかし、身体の不自由な方が不便な思いをしないよう、ホテルマンが直接お手伝いさせて頂きます」と。
確かに近代的な施設や設備が完備されているわけではない。しかし、それを補って余りあるホテルマンたちの温かいホスピタリティ。それこそが数々の名門ホテル。
(創業70周年を迎える山の上ホテルは、竣工から86年を迎える建物の老朽化への対応を検討するため、2024年2月13日より当面の間、休館する事となりました)
三島由紀夫氏が、社長の吉田氏に手渡した原稿。『東京の眞中にかういう静かな夜があるとは思わなかった。設備も清潔を極め、サービスもまだ素人っぽい処が実にいい。ねがわくは、ここが有名になりすぎたり、はやりすぎたりしませんやうに。三島由紀夫』と書かれている。
昭和30年当時の婚礼パンフレット。当時の挙式の主流である神前式の紹介や料金等の歴史を垣間見ることが出来る。